今日の一冊


「手紙」 東野圭吾著 文春文庫(9点)

 

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(以下、ネタバレしてますのでご注意を)

 

痛い本です。読後に鈍痛のような余韻が残ります。

犯罪の罪というものはこれほどまでに痛く、永く続くものか。と思い知らされます。

普段無意識に目を背けていることに「現実をちゃんと見てろ!」と突き付けられているように感じました。

弟を大学に行かせるためにどうしてもお金が必要になり、ある老婦人の家に忍び込み窃盗を働いた兄が誤って老婦人を殺害してしまう。
物語は、服役する兄から弟への手紙を中心に、たった1度の過ちで弟、その妻、さらにその娘まで、すべての続く家族を、永劫苦しめつづける現実がストレートにつづられる。
物語としての脚色や演出は極力切り落とされ、非情なほどの現実が描かれる。

兄が服役し、一切の収入そして進学の夢もたたれた弟はなんとか職を探すが、ようやく見つかった職場でも、兄の犯罪が明らかになると、働き続けることができなくなる。
なんとか夢を持ち、お金をため通信制の大学へ行く弟だったが、そこで出会った仲間と組んだロックバンドのプロデビューも、兄の犯罪が発覚するや、メンバーから除外されてしまう。さらに出会った大切な女性との関係も、兄の犯罪が発覚することで、破局を選択せざるを得なくなる。そして続く生活も人生もその犯罪が焼き印のように残り、弟を苦しめ続ける。
どこへ行っても何をしても、その罪につきまとわれる。

ラストでは兄との完全な決別を決意する弟だが、その答えも一つの選択であり、完全ではない。

自分ならどうするか。

自分はどんな人間か。

できることなら目を背けて通りたいことかもしれない。
だがそんなときどうするか、読後もずっと問いかけられている。

高等道徳の課題図書としてもふさわしい一冊ではないか。□