今日の一冊

 

「代償」 井岡瞬著 角川文庫

 

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悪役こそが物語を面白くさせるという原則がある。
悪役が悪役としての役割を果たすほどに、正義がどのようにそれを裁くのかが一層引き立つのである。
......と言ってはみたものの。

この物語の悪役・安藤達也の悪役たる発言、行動の不愉快さは半端ではない。
彼奴めが登場し、その発言や態度、行動するたびに、言葉にならない精神的に不愉快な鈍痛が走る。
まるでゴキブリで満たされた水槽の中に閉じ込められたような気分だ。

主人公・奥山圭輔は小学生時代、ある日突然、両親を火災で失う。火災の原因はなんだったのか。安藤への疑惑が解消されないまま、安藤達也と母・道子が暮らす古い団地に引き取られる。そこではそれまでの幸せな暮らしが嘘であるかのような地獄の暮らしが待っていた。
やがて成人した圭輔は弁護士となるが、そこに殺人窃盗事件の容疑者となった安藤達也から弁護の依頼がやってくる。やむを得ず引き受けざるを得なくなったが、ここにもまた安藤の罠が張られていた。

不愉快ではありながらも「圭輔はどうなってしまうのだろう。結末はどうなるのだろう」という強い引力に引き付けられ、ページをめくる手が止まらない。帯にあった「一気読み」は嘘ではなかった。

これだけ酷い悪役にもなかなか出会ったことがなく、最後まで読み終えて、事件に決着はついたものの、読後感は100%すっきりはしない。個人的には、タイトルにある「代償」としての安藤への仕返しが生ぬるかった。120%の爽快感にしてほしかった。□

 

(以下は、自分へのネタバレメモ。すべて書いてますので見ないようにお願いします)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・丸岡運輸の本間保光の殺害事件の犯人として逮捕された達也だが、本当に殺したのは、母・道子の愛人・門田だった。
門田は、道子(達也)が夫の孝秋が邪魔になり殺害して群馬の山奥に捨てるのに協力していた。そのときの声を録音しており、道子(達也)をゆすっていた。本間の殺害をして金を奪った門田は、自分の代わりに達也を留置所に入らせた。達也には殺害当日の晩に道子との行為をネット配信するという恥知らずなアリバイを切り札として持っていたため、いつでも出られる余裕があった。
・達也は自ら手を出すことはせず、周りの人間を焚きつけ、実行させ、のうのうと逃げおおせて生きる極めて凶悪な犯罪者だった。
父孝秋は母道子に殺害させ、丸岡運輸の窃盗は門田に実行させ、中学時代に圭輔が想いを寄せていた諸田美果を先輩に輪姦させ自殺に追い込んだ。さらに、裁判で自分のアリバイを証言する美果の妹紗弓に嘘を吹き込み主人公・圭輔の弁護士としての生命までも断ち切ろうとした。すべての裏を操っていたのは達也だった。
・証拠を残していない達也だったが、道子や紗弓を巻き込み挙げ句の果てには殺害までも考えていたことが発覚し、最後は中華料理店ですべての真相が明らかになった後、道子に酒に農薬パラコートを盛られ、病院送りとなった。一命はとりとめたが、その後の処罰までは描かれていない。