制作日誌

 

「出品直前まで画面の中であそんでいたらいいんだ。

 いつも早くに絵を決めようとするのがいけない。」

 

アトリエで大作をゼロから描くという初めての試みの中、
先生がとくに繰り返した言葉であった。
確かに、一人で描いていたときは、じわじわと迫る締め切りに怯え、早くに絵を安定させようとしていた。
ある程度早い時期に構成を確定させて、残された時間では細かい微修正をしていた。
だけど、そんな細かいところは多くの人の目には届かないのである。
一番大切なところ。3秒で人の目に届くところ。そこに注力する。そこにぎりぎりまで時間をかけるのだ、と言われた。
実際、出品まで3日という追い詰められた状況においても、絵は未だ混沌としていて、いっこうに決着がつく気配もなかった。
今回は本当に怯えた。
だが先生は、絶対にできるから。と僕をなだめた。
そして絵は、確かに、さっくりと、できあがったのだった。
「ほれみろ、できたろ」という先生の言葉を聞きながら、できあがったことにまだ実感がわいてこない。

ぎりぎりまで大きな構成を動かし続け、最後の1手で決着をつける。

今年の作品は、そういう挑戦をした。□