壁なき子

 

10年ほど前に仕事を少しだけ一緒にした。または、お世話になった。

.....といった人に、ふいに再会したとき、みんなはどう振る舞うのだろう。

 

僕はそんなとき、どうしていいかわからない。

 

10年前のわずかな記憶だけをよりどころにして、知己の友のように
振る舞うには時間が経ちすぎているし、
10年前から停止している古い話題で間をつなぐこともパワーを消耗する。

だからこそ、僕はそんな再会のときに、つい目を背けてしまう。
だけど、初対面として振る舞うには、互いの記憶がまだ新しい。
相手も同じようなことを考えているから、お互いどうも重い気分になる。

それが、たまたま1度だけの再会ならば軽い挨拶でその場をしのぐことも
できる。だけど、異動か何かで近くの部署までやってきた。となると、
そうはいかない。
目を背けるという行為を選択したことが、傷口を広げていくことにもなる。
嫌いなわけではないが、なんとなく近づくことも遠ざけることもできない。
そんな状態で改めて廊下ですれ違ったりしたとき、ぷいと目を背けられて
僕は軽く落ち込んでしまうのである。

一体、なにをやっているのだろうか。

壁を作らない人。にあこがれる。
彼にとっては、会ったのが昨日だろうが10年前だろうが。
あるいは初対面であっても一向に動じることはない。いつも全開なのだ。
僕は宴会の席だけ、どういうわけか壁が消える。だけど宴会を離れると
また、壁の中の生活に戻っていくのである。

壁のない人、壁なき子になりたい。□