今日の一冊

 

「折れた竜骨」米澤穂信著 東京創元社

 

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名作です。

ファンタジーの世界と本格ミステリーとのハーモニー。

ファンタジーとしての世界観。

ミステリーとしての完成度。

タイトルの意味が明らかになる物語の結末と余韻。

....どれをとっても秀逸な完成度である。

 

ファンタジーノベルとして読み始めると、直ぐに殺人事件が起こり、犯人は誰だ?という展開となる。

舞台となるソロン島と小ソロン島の間が船でしか往来できないという設定は、まさにミステリーの王道「クローズドサークル」であり、本作がファンタジー小説である以上に、ミステリー小説なのだということに気づくと、ミステリーファンとして犯人探しの欲望に火がつくのである。

頭部を切断しない限り死ぬことがない呪われたデーン人、持ち主だけが持つことにより姿を消すことができる蝋燭 等、ファンタジーとしての要素がミステリーの謎解きにうまく持ち込まれている。

文庫版は上下巻に分かれているボリュームのある一冊だが、米澤穂信ミステリーの中でも屈指の完成度と思います。

世界観やキャラクターに強い魅力があり、アニメ映画になってほしいと思いました。□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(!!注意!! 以下、自分へのメモ。真相を全部書いてます)

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・暗黒騎士エドリックが、魔術により人間を「走狗」として操り、ソロン領主のローレント・エルヴィンを殺害した。

・暗黒騎士エドリックの追跡討伐の旅を続ける聖アンブロジウス病院兄弟団のファルク・フィッツジョンと弟子の二コラを探偵として、エドリックを追跡しつつ、「走狗」が誰だったかを調べだす物語。

・ソロン領主のローレント・エルヴィンは、かつてのエルヴィン家がソロンを治めていた呪われた民・デーン人を追放したことで、いづれデーン人の復讐がやってくることを見据え、傭兵を集めていた。容疑者はその中にいるという展開。

・容疑者を1人ずつ除外していく展開の論理展開が素晴らしい。

 騎士コンラートは、姿の消える蝋燭を使って盗みを働いていたものの、その蝋燭は一晩消えることがなく、手放すこともできないため、第三者に目撃されていた容疑者とはみなせない、として除外。

・弓使いのイテルは、拷問にあっており実は右手の親指がなく、殺害に使われた剣を握ることができなかったとして除外。

・巨大な人形を操るスワイドは、宗教的な理由で豚を触ることができない。剣に豚の油を使っていたと思い込んでいたスワイドが殺害に使われた剣を触ることができなかったとして除外。

・蛮族ハール・エンマは実はデーン人の王の子であり、血を流すこともないため、「走狗」とはなりえなかったとして除外。

・塔に幽閉されていたデーン人の生き残りトーステンは、ハール・エンマが島にやってきたことを契機に、塔から脱出を図った。呪われた民族なので、自らの体をバラバラにして小さな窓から脱出することができた。

・最終的には、探偵たるファルクが「走狗」であったことが告発され、アンブロジウス病院兄弟団の勝利とするために、自らを暗殺騎士とさせ、二コラに殺させて事件は幕を閉じるというどんでん返し的展開。

・再びデーン人に襲われるなどの事件が起こった時に、二コラを呼び出すための合言葉が、デーン人の竜に見立てた船が折れている様子から導き出された「折れた竜骨」という言葉となる結末。