本屋の戦い

 

本屋が好きである。

 

かけたときには強い引力に引き付けられるように、必ず本屋に吸い込まれてしまう。

文庫の新刊が並ぶ棚をはじからゆっくりと眺めていく。

いろとりどりの表紙デザインに、さまざまなコメントがつけられた帯。

1冊1冊が、作家ひとりひとりの強い想いの結晶である。

気になるタイトルの本を手に取って裏表紙のあらすじを眺める。
この1冊の中にどのような世界が広がっているのか。
時間が許せば。
自分に誰にも負けない速読のスキルがあれば。
はじからはじまで、並べられた本のすべてを読めるというのに。
残念ながらそんなスキルも時間もない。
ただその小さな情報から、宇宙を想像してまた元の位置に戻すだけだ。

それにしても本屋のイチオシとして、本屋の顔として、ならべられるこれらの本のなんと輝かしいことか。
だけど世界にはもっともっとたくさんの本があるし、本にしてほしくてもそこまで届かない作家もいる。
ここに並べられている本だって、読者の貴重な時間を割いて読んでもらうために、必死に主張をしているのである。
本が出せること自体すごいことだが、本が出たら出たで、書店の目立つ場所においてもらえるかどうかでまた戦いが待っている。そして最も目立つ場所に置かれた本同士でも、売れ行きで激しい競争がされている。
はなやかな裏で、過酷な時間やお金の争奪戦が展開されている。

 

そのとき愕然と、分野は違えど、自分の絵はどのあたりにあるのだろうと考えておそろしくなった。

 

作品づくりに携わり続けることの誇りはある。

だけど鑑賞者の期待するクオリティにたどり着けているかどうかは怪しい。

しがみついていたら、いつか鑑賞者の期待に応えられるものが出てくるかもしれない。

そこにたどり着きたいという青い炎もずっと燃え続けている。

 

書店の本の前で、こんなことを考えている人間は自分だけだろう。

展覧会を直前に控えているので、頭が作ることに向かっているせいだろう。

結果はどうなるかはわからないが、個展で発表する作品の1枚1枚は、本屋のイチオシの棚に並べられるようなものをと思って作っている。□