もーやんの怪談2021 その4

 

清掃業に携わる人は、「事故物件」と言われるアパートやマンションの清掃をすることもあり、いろいろな不思議な現象に出会うことがあると聞きます。

 

これもある清掃業者の方の話。

 

あるアパートで空き部屋となった場所の清掃の依頼が来た。

清掃とは関係がないので、依頼のあった物件が、かつてどんな物件であったかなど、詳しい話が開示されることは、ほとんどない。

その日は、何件もの清掃業務が重なっており、その物件に訪れたのは日も暮れかけた時間になってしまっていた。

古いモルタルづくりのアパートの2階。

階段を登り、借りてきた鍵で部屋を開け、入ろうとしたときに、隣の部屋の扉が開いて女性が顔を出した。

清掃に来た旨を挨拶まじりに軽く伝えると、彼女と雑談となった。

かつてその部屋は、赤ちゃんを連れた三人家族が住んでいたという。
特に付き合いがあったわけでもない。
いつも赤ちゃんが泣く声が聞こえていたけれど、ある日から全く聞こえなくなって、そのうち夫婦ともにどこかへ消えてしまったようだ。

 

広い家にでも越したのかな。そんなことを考えながら部屋に入り、清掃を始めた。 

1DKのどこにでもある古いアパートである。日も暮れかけていく中、直ぐに終えて帰るつもりでいたが。

 

突然、浴室から水の流れる音が聞こえてきた。

 

行ってみると、シャワーから勢いよく水が出てきていた。

シャワーの栓は回していないし、そもそも水は止まっているはずだった。

おかしなことがあるな、その時はそれくらいに思って作業を続けることにした。

 

リビングダイニングのフローリングのモップがけをはじめたが、遅くになり、日もすっかり暮れてしまった。
電気は止められているので、ある程度モップがけを終えたというところで仕事を切り上げてその日は帰宅した。

 

翌日の午前中、改めてアパートを訪れ部屋に入ったとき、思わず叫んでしまったという。

 

「なんだこりゃ」

 

 

部屋に入ると、昨日モップがけしたリビングダイニングの床には、無数の赤ちゃんの手形がたくさんついていたという。□