ある製薬会社に勤める男性の話である。
彼は仕事の都合で転勤することになり、新しいアパートを探していた。
不動産を歩き、町の中心から外れた、小さな3階建てのアパートの3階の部屋を紹介された。
「一応お断りしますがね、ここ事故物件なんですよ」
この部屋が事故の起きた部屋ではないようだが、過去にアパートで事件があったので説明はしておきますとのことだった。
ちょっと気味が悪いような気もしたが、格安だったし、間取りもよかったので、契約することにした。
住み始めてしばらくは何もなかったのだが、ある晩。仕事から戻って食事を済ませ、眠ろうという深夜に差し掛かった時間に、突然玄関のチャイムがなった。
扉を開けると、白い顔をしたほっそりとした女性が立っていた。
「2階の真下の部屋の住人なのですが、
今帰宅したら、暗い部屋の中に誰かがいるような気がするのです。
怖いので、一緒に来て見てもらえませんか」
挨拶も兼ねながら彼女と共に下の部屋へ向かった。
「先に入ってください」
と促されたので、一人暗い部屋の中に入っていった。
ざっと見たが、人の気配はなかったので、「誰もいないようです」と言いながら振り返ると、その女性が恐ろしい形相をしてこちらを睨むようにして立っていたという。
ぎょっとしたが、改めて見ると普通の表情に戻っていて「そうでしたか、ありがとうございました」と礼を言われたから、気のせいかと、そこで彼女と別れ、3階の自室に戻ってきた。
それからしばらくして、休日に訪問者が来た。
2人の警察官だった。
以前あった事件の調査をしているので部屋の中を見せてほしいという。
中へ通すと、警察官は部屋を調べたのち、ベランダを見せてください。と言った。
警察官が小声で話しているのが聞こえた。
「犯人はこの部屋に住んでいて、ベランダの非常梯子から2階の真下の部屋に降りた。
そこから部屋に忍び込んで、女性を殺害したのち、強盗した。
玄関のカギをあけ、玄関から逃げたと見せかけてから、
非常梯子からこの部屋に戻ってきたということですね?」
「被害者も後ろから突然、首を絞められたから、
犯人の顔も見ていなかったでしょうね...........」
強盗事件のあった事故物件の部屋はなんと真下の部屋だった。
その部屋は今は誰も住んでいる人がいないということだった........!
では、この前訪れた女性は.............誰?
そう気づくと男はぞっとした。
「被害者の女性は犯人の顔を知らない」から、きっと今3階に住む自分を犯人だと思い復讐に来たのではないか!?
部屋を移るにも移れず、数日が過ぎたころ、深夜に再び玄関のチャイムが鳴った。
「開けてください」
あの女性の声だった。
とん、とん、とん。
どん、どん、どん。
ばん!ばん!!ばん!!!
扉をたたく音が次第に強くなっていく。
殺される。と思った男は、ベランダに逃げ出し、非常梯子を使って下に降り始めた。
2階のベランダに降り、2階からさらに1階への梯子を出し、降り始めたときだ。
ベランダに女性が立って、恐ろしい形相で男を睨み、梯子を下りかけた男の首を絞めてきたという。
半ば、2階と1階の間で首つりのような状態になった。
必死で抵抗をした。そしてひもがほどけ男は1階へ転落した。
近くを通りかかった人が、救急車を呼んでくれ、病院へかつぎこまれたという。
以来、男はアパートを解約した。あのアパートが今どうなっているのかは知らない。□