造園業を営んでいる知人の話である。
ある年配の実業家が病を患い、長期の入院をしていて、長い間空けたままにしている屋敷の庭の手入れをしてほしいと依頼を受けた。
代理人から鍵一式を手渡されて、一人山奥にある屋敷に向かった。
実業家には会ったことはなかった。
いろいろな噂のある実業家で、山奥にあるにしては大きな屋敷だった。
早速、伸び放題となった植物の手入れなどから始め、造園作業を進めていたが、しばらくすると、ふと、屋敷の中から、人の声が聞こえたという。
誰もいないと聞いているんだけど....。
そうは思ったものの、気のせいかと思い作業を続けていたが、またしばらくすると、確かに人の声がする。
気になり始めてしまうと、どうもそのままにしておけない。
借りた鍵もあるし、もし誰かがいるのであれば挨拶をしておいた方がよいだろう。ということで、鍵を開けて屋敷の中に入ることにした。
扉を開けると大きな玄関とその奥まで太くて長い廊下が続いている。扉や窓は締め切っているので、光がほとんど入って来ておらず奥は真っ暗である。人の気配はない。
ペンライトを片手に順番に一部屋ずつ確認をして回ったが、誰もいない。
二階も行ってみることにした。
一つずつ部屋を見て行く。誰もいない。
そして、一番奥の部屋の扉を開けた。
和室だった。
雨戸なども締め切っているからペンライトの光しか頼るものがない。部屋に入っていく。足元に畳が照らされている。
部屋の奥に、女性が立っていた。
白い服を着た髪の長い女性だったという。
彼は始め、人形かな....?と思ったようだ。
だが、ペンライトを顔に向けたとき、その目が、きゅるん、と動き、ライトの光が反射したという。間違いなく人間の女だった、そして、それがこの世の者ではないことも瞬時に確信した。
ぎゃああああああああああ。
絶叫して廊下に飛び出した。
慌ててしまい階段で足を踏み外し、下まで転落した。
足をねん挫したようだが、死に物狂いで這って玄関まで逃げようとした。
すると、うしろから、
とん。とん。とん。
階段を下りる音が聞こえてきたという。
追ってきている....!!
やがて、
ずっ。ずっ。ずっ。
という足をするような音が後ろから聞こえてきた。確実に、自分を追いかけてきている。
足は痛くて動かない、全身汗まみれになり、這って、這って玄関まで進んだ。
なんとか玄関までたどり着いて扉を開き、外へ転がり出たという。
振り返ると、玄関の向こうに見えるのは闇。何かがおってくる気配はなかったという。
造園業者は、怪我で作業を取りやめ、仕事をキャンセルし、以来あの屋敷には行っていないそうだ。□