もーやんの怪談2021 その5(最終回)

 

東北の湯治場に訪れた5人の男女の学生たち。

 

男性3人、女性2人の彼らは、ひなびた小さな温泉町の小さな宿に入った。


宿の奥に、かつて使われていた古い湯治場が残っていて、宿泊もできるとのことだったので、女の子2人が使わせてもらうことになった。

 

本館からの長い渡り廊下を歩くと、小さな宿坊がある。そこが湯治場らしい。

扉を開けると、木造の古い廊下がまっすぐのび、左に5つほどの部屋の扉が見える。

一番奥の部屋の前に1組のスリッパが並べて置いてあった。

どうやら奥の部屋に一人先客がいるのだろう。

女の子2人はそれぞれ手前の別々の部屋に入った。

廊下を挟んで、部屋の反対側に、共同の洗面所と、露天温泉につながる扉がある。

早速女の子の一人が温泉に入ってみることにした。

扉を開けると脱衣所になっている。

既に先客がいて、一人の女性が湯舟に入っている。

風呂に入ると、女性に声をかけてみた。


いいところですね、と他愛もない会話をしていたが、女性は、か細い声で、それだけでもない、という話を始めた。

かつて長い間、病を患いここで療養していた女性が、自殺をした事件もあった、と語った。

 

女性を残し、温泉を出ると、廊下にある共同洗面所で友人が歯を磨いていた。

 

「お風呂は?」と聞いてみると、彼女は「さっき入ったよ」と答えた。

 

「風呂場には来なかったな」と、不思議に思いながらも、何かの思い違いだろうと聞き流した。

 

部屋に戻り、布団を敷く。

押し入れの奥に何かある。

見ると、古い小さな鏡台だった。

3面鏡になっている鏡を開いてみると、自分の顔がちらりと映ったのが見えたが、すぐにおかしいと気づく。

改めて見ると、鏡が入っていなかったのである。今映ったような気がしたのは誰?

 

少し気持ちが悪くなり、 鏡台を閉じ、部屋の隅に置いて眠ることにした。

 

夜中に、うなされる。

誰かが布団の周りをぐるぐると歩き回っている気配を感じた。

やがて自分の横に誰かが横たわってくるのを感じた。

そして肩に誰かが手をかけて、体を向けさせようとしている。

長い金縛りが続いたが、必死でその力に抵抗をしているうちに、いつの間にか眠りについて、そのまま朝を迎えた。

 

部屋を出ると、廊下の奥の部屋にあったスリッパがなくなっている。

すでにチェックアウトをしたのだろうか、と奥のその部屋の扉をあけてみると、床板が抜けていて廃部屋になっていた。

とても人が泊まれるような部屋ではなかった。

さらに、昨日入った廊下の反対の温泉の扉を開けてみると、湯が抜かれていて蜘蛛の巣が張っていた。

温泉は別の場所にあったのだ。彼女が入った温泉で会った女性は誰だったのか。

 

宿の人に尋ねると、今なお、温泉を訪れた自殺者は多いようだ。

長い時間、多くの客を招き入れた湯治場には、不思議な出来事が多いようだ。□