今日の一冊

 

「葉桜の季節に君を想うということ」 歌野晶午著 文春文庫

 

 

 

 

おどろきました。すごい傑作である。

 

冒頭の一行目から、なんと卑猥な...と思ってしまったが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(以下、自分のためのメモ。すべてネタを赤裸々に書いているので注意)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・冒頭の一行目から、もう読者へのミスリーディングが始まっている。

・2002年。
 主人公 成瀬将虎(トラ)が70歳の老人であり、彼を取り巻く後輩のキヨシも、妹の綾乃は孫の美波を持つ、高齢者である。が、彼らが全員、あたかも若者であるように読めてしまう。そこがまずミステリーとして驚愕する。

・詐欺に引っかかる高齢者の古屋節子の物語が並行で描かれるが、年齢をミスリードすることによって、古谷節子と麻宮さくらが年齢的に他人であると思わせ、ミッシングリンクを作り上げている。

・途中割り込ませる明智探偵事務所からのヤクザへの潜入捜査の物語は、トラが20歳の1951年の出来事であり、過去のエピソードなのだが、それも、トラが現在老人であることをカムフラージュし、まるで物語の本線とつながっているように読ませてしまう。

・そして、古谷節子と麻宮さくら。成瀬将虎と安藤士郎。二つのなりすましが同時に物語に絡む。
・途中から物語に割り込む詐欺組織・蓬莱倶楽部に騙され高額の借金を抱え込んでしまう古屋節子は、地下鉄のホームに飛び込み自殺未遂をしてトラに助けられる麻宮さくらと同一人物である。
・対し、トラはパソコン教室の生徒 安さん(安藤士郎)が自殺してしまったことを受けて、安さんに成りすます。自分用の携帯電話1と安さんが持っていた携帯電話2を使い分けている。

 

・歳に関係無く挑戦を楽しむ。という強い生き方を示し成瀬将虎が古谷節子をはげまし、勇気づけるラストは、人生の指導書のようでもある。

・最後の一行「赤や黄に色づいた桜の葉は、木枯らしが吹いても、そう簡単に散りはしない」が、人生を桜にみたてていて、強い励ましと余韻を残す。

・作品タイトルも秀逸。

 

・個人的には、蓬莱倶楽部の連中を粉砕するシーンまで描き切ってほしかった。