夢十夜 Season6 第七夜

こんな夢を見た。

 

東京藝術大学に社会人として悲願の入学が叶った。

 

入学にあたってのオリエンテーションに参加する。

吹き抜けになっているレンガ敷きの広い部屋。
天井の窓から光が差し込んでいる。観葉植物がおかれている。
その隣は学生の作品講評が行われる部屋のようだ。こちらも広い。

オリエンテーションに集まった新入生の中に、田中さんがいる。

「この前、定年を迎えたので、この機会に美術を勉強しなおそうかと」

そう言うと彼は、部屋の真ん中に設置された、ジャングルジムのように組み上げられた鉄骨に上り群らがっている学生たちに「よろしく!」と握手して回っている。
それに便乗して、彼らと握手を交わす自分。
そもそも彼はそういうキャラだったか。まるで別人のような社交性の高さに驚くと共に、そんな社交的なスキルのない自分に、小さな負い目を感じている。

 

早速、作品を制作するという課題が出ていた。サイズや枚数は問われない。

自分は、1メートル×2メートル程度の以前作っていた作品を出して、まあ最初はこんなものか、社会人だし時間ないし。などと自惚れていたのだが、講堂ですでに始まっている作品講評で、他の学生が壁に映し出している作品群をみて驚愕する。
10メートル×3メートル級の、水色でシンプルに描いたビルの作品。それが、20枚、30枚と次々に壁に映し出された。
圧倒的な力量とクオリティに震撼する。

自分の作品講評はいつだったか。作り直さないと.........!。時間はどれだけあるんだっ.........!?。パニックになる。
それでも講評の時間がやってきてしまい、自分のちっぽけな絵は、そんな「超大作」が次々と講評されるのを横目で見ながら部屋の隅で、だれにも気づかれず女性教授からの講評を受けている。
講評はやさしすぎるほどやさしかった。ハラスメントだのコンプライアンスの時代か。酷評だったり叱咤のようなものはいっさいなく、それがむしろ今の自分のみじめさをいっそう強調した。

 

「あなたはスクーリングですか、私は全ての講義・演習に出ます。引退してますので」

 

田中さんが話しかけてきて、そこで自分がまだ社会人であることを思い出した。
これから毎日進行する、ここ東京藝大での講義や演習に、どれだけ出席できるのだろうか、卒業できるのだろうか、とそこで初めて気づき、入学はまだ早かったか..........。これからどうする!?........と冷や汗を出す。□