条件反射

先日のとある夕方、混雑する電車の中でゆられていた。
隣には高校生くらいの女の子が座っていたが、熟睡しており、激しくローリングしていた。

次の駅につき、ぞろぞろと人が出て行った直後、突然その女の子は目覚め、ダッシュで飛び出していった。
危うく乗り過ごすところだったのだろう。ぎりぎりセーフといったところか。
が、彼女が立ち上がると共に、ごとっ。と音がして何かが床に落ちた。
隣のおばさんが「あ」と声を出したが女の子は気づかずに出ていってしまった。落とし物である。

電車はまた走り出した。

足下には彼女の落とし物が落ちている。
みんな見ている。だが誰も拾おうとはしない。沈黙。ちょっとした気まずさ。

なぜ声を出さなかったのだろう。なぜ拾っておいかけなかったのだろう。

条件反射できなかった自分にちょっとした自己嫌悪。せめて駅員に届け、本人の元に無事戻ることを期待するしかない。と、下車する際に、ひょいとその落とし物を拾い上げた。

i-podナノだった。

貴重品である。きっと彼女の好きな曲がたくさん記録されているのだろう。
まわりの目が気になった。俺が泥棒にでも見えたのだろうか。どうでもいい。勝手に思え。
駅員にしっかり彼女に届くよう言付けて預けた。

今頃彼女の手元に戻っているといい。次回はちゃんと条件反射しよう。□