真夏の果実

鎌倉へスケッチに行ってきた。


鎌倉はいい。何度いってもいい。
小田急線の藤沢駅から江ノ電に乗り、江ノ島駅を過ぎると海が見えて来た。
江ノ電は海岸線に沿ってずんずん進んでいく。
窓から入り込む風は潮のにおいがする。
鎌倉高校前駅のホームから見える景色は見渡す限りの水平線だ。
海にはたくさんのサーファーがサーフィンにいそしんでいる。
夢のような世界である。
こんな場所が日本のこんな近くにあったとは。


ひとまず終点の鎌倉駅まで行き、ウォーミングアップを兼ねて鶴岡八幡宮で1枚描いた。
が、鎌倉駅は完全に観光地化されていて、人ごみも多く、描けるポイントは少ない。
やはり江ノ電沿いの古い町並みを散策がてら歩くほうが楽しい。
鎌倉駅を離れ、再び長谷駅周辺まで戻り、江ノ電沿いを散策した。
極楽寺の方に向かって歩いていくと鎌倉権五郎神社という神社を偶然発見した。
ここはすばらしい。
人気のある長谷寺高徳院(鎌倉の大仏がおわすところ)に比べると人はほとんどおらず、忘れ去られたかのように静かである。
聞こえるのはどこからか聞こえるヒグラシの声や、そして時折、神社の前を横切っていく江ノ電の走行音だけである。
この神社で描いていると時折、自分と同じようにこの神社の発見を喜んで参拝していく人たちが現れる。
はじっこでスケッチしている自分は異世界の人物にでもみえたのだろうか。
だが、自分は楽しくてたまらない。こういう発見こそがスケッチの醍醐味なのである。


その後、権五郎神社を出てから極楽寺を経て稲村ヶ崎まで歩いていく。
立ち並ぶ人家の間に光る海が見えてきた。
どこからかサザンの「真夏の果実」が聞こえてくる気がした。空耳なのだが。
稲村ヶ崎の海浜公園から江ノ島を仰いで今日最後の1枚を描く。
天気がよければ富士山も見えたのだろう。
ここ最近は連日雨が止まず、この日はなんとか天気はもったものの、降らない。というだけで空は雲で覆われていたのだ。
だがこの孤立した静かな時間の流れ方は、天気とは関係がない。いつ来ようとも、鎌倉には癒される。


今度はあらためて富士山が見える日に江ノ島にでも行ってみよう。□