読書「雷の季節の終わりに」恒川光太郎著(9点/10点)

角川ホラー大賞を受賞し、直木賞の候補にまで挙がった「夜市」から初の長編小説。


「夜市」がすごくよかったので、それを越えるものはなかなか出せないのではないか、と思っていたがそんなハードルも軽々と飛び越えてしまった。


今回もすごくいい。
穏(オン)という5つの季節を持つ不思議な土地で成長した少年を主人公として、その小さな世界の描写から始まり、やがて穏の外へと物語が広がっていく。


相変わらずの伝奇的で不思議な世界観である。
なんとなく「蟲師」に似た感じもするが、設定がしっかりしていて、ホラー要素やミステリ的な要素がちりばめられていて、独自のものに仕上がっている。
素直にストーリー展開がおもしろく、主人公たちの行く末が気になって、最後まで一気に読み込んでしまった。


目を背けたくなるような悪の存在も見事である。
主人公と悪の最終決戦に向け、これだけの大風呂敷を広げたにもかかわらず、残りページが少なくなって、大丈夫か。と思って読んでいたが、全ては緻密に設計された構成からなっていて、そんなものが杞憂であったと思い知る。無駄が一切ない。
結末の切なさや余韻も見事だった。


ハードカバーで本を買うときは装丁だけで選ぶのだが、恒川作品のみは珍しい例外だ。


次回作も発売されたらすぐ買ってしまいそうだ。□