今日の一冊

 

ボトルネック」 米澤穂信著 新潮文庫(5点)

 

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「素晴らしき哉、人生」という名画がある。

アメリカの良心を言われた名優ジェームズ・スチュワート演じる男が、夢をあきらめて小さな村にとどまり頑張って生きていくのだが、度重なる不幸と悪意のある人間の攻撃にあい、絶望の果てに追い詰められる。橋から投身自殺を図ろうとする彼だったが、目の前に天使が現れて、自分がもし居なかったら?の世界を見せてくれた。そこは、何もかもがすさんだ世界だった。彼はこの素晴らしかった世界に気づき、希望と感謝を取り戻して、生きていくことを決めるのである。

 

本作は「諦める哉、人生」というタイトルがふさわしい。

兄が死に、彼女が死に、両親は互いに不倫を繰り返す世界で生きてきた少年リョウが、自分のいないパラレルワールドに迷い込む。そこには自分はおらず、代わりに生まれた姉サキがいて、世界は美しく回っていたのである。

兄は元気で大学生となっていて、彼女はサキの後輩として元気に生きている。両親はとても仲良く一緒に旅行をしている。
主人が病気で倒れて閉店したはずの定食屋も元気に継続していた。道路の真ん中にあった巨大なイチョウの木をサキが抜くことで、定食屋の主人が倒れたときに救急車が間に合ったのである。
この世界は、サキが、リョウとは異なるifを選択することで、何もかもがよい方向に回っていた。

リョウが居た世界と、サキの居た世界との違いを生み出した原因が解消されていくところは、ミステリーとして面白い。
だが、物語が暗すぎる。リョウのもとに最後に残るのは絶望で、読み終わった後の後味がとても悪い。

「リカーシブル」もなかなかの痛みを描いていたが、ミステリーとしての面白さがなんとかその暗さを中和してバランスを保っていたが、本作はミステリー以上に痛みが際立ってしまって、後味の悪さが特に強く残ってしまった。

主人公をサキにした方がよかったのかもしれないと思ったな。

諦める哉、人生。はリアルだけで充分。

やっぱり、物語では、素晴らしき哉、人生。を読みたいな。□