西の秋

 ここ数年にはなかった幾多の魅力的な美術展が企画され、心躍らせて迎えた2020年だったが、始まってみれば想像にもなかったコロナ禍の猛威によって、中止・延期が余儀なくされ、すっかり心が折れた状態になっていたのだが。

 

秋を迎えてみると、それらを吹き飛ばすほど、西は忙しかった。

 

京都や奈良の博物館や仏閣のそこここで、絵画やら仏像やら、非公開だった文化財が公開され、とても体が足りない。

ただ自分がきづいていないだけで、秋という季節は毎年そんなものだったのかもしれない。だが、今それに目を向けたときのその忙しさたるや。

中止となった展覧会などすっかり忘れてしまうほどのうれしい忙しさである。

 

先日は京都・ 西本願寺の向かいにある龍谷ミュージアムで開催中の、えんま堂の特別展示を拝観してきた。これも偶然駅のポスターで発見した展覧会であったが、威風堂々と居座る閻魔王像に引き付けられたのであった。

 

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なんでも、西七条にある「えんま堂」に安置される、閻魔王含む地獄の裁判官たる十王像を調査してみたところ、鎌倉時代から室町時代にかけて作られた歴史的文化財であることが発覚し、この機会に一般公開となったとのことであった。

会場の奥に閻魔王を手前に、十王像を奥に鎮座させ、まるで地獄の入口を模したような会場に、ちょっと涼しい気持ちになりながらも、それぞれ40~50㎝程度の小柄なお姿であることに可愛さも感じたりで、「地獄の美術」を満喫した。

禅林寺からの出品である「十王図」もなかなか「ゆるい絵」であり、これまたゆるファンの自分にとってはぐっとくる作品であった。

会場は予約制であることもあって、とても静かでゆっくりと楽しむことができた。

 

そしてなにかを1つ見れば、そこにあるポスターやらチラシやらでまた予期せぬいくつかの特別展示の存在を発見したりして、直ぐに次の予定がストックされる。

美術展がないなどと嘆いている暇などない。

むしろ体や時間の足りなさを嘆きたいほどだ。

世界は常に多くのセレンディピティであふれているのであった。

それに気付けるアンテナを磨いておくことが大切なのかもしれない。□