群衆の中の猫

 

ものすごい数の人が駅の構内を歩いていく。

 

人ごみの中を行いていく。

 

人ごみの中を帰っていく。

 

そんなことをほぼ毎日、

この人生で繰り返してきた。

 

その中の一人が自分なのだが、

自分はこの群衆の中の一人ではない、

自分はどこか違う世界の住人である、

なにか特別な存在である、と。

無意識にそんな風に思いこんできた。

いわゆる中二病というやつだろうか。

そうでありたいと願っていたし、

そうであれると期待していたし、

そうであるに決まっていると思っていた。

 

だけど、最近、ふと、そんな考えが、

結局自分もこの群衆の中の一人である、

という事実に上書きされていたことに気づいた。

いつからかはわからないけど、まあ最近だ。

 

あいかわらずできることをこつこつとやっているけど、

それといった大きな成果も出せずにこれだけの時間が

過ぎてしまっていて、

「あしたの俺は世界を変える」なんて吠えていたころから、

あっちゅうまに時間が過ぎて、あのときの「あした」が

もう「きのう」になってしまっていることに、愕然としたのである。

それは自分だけじゃなくて、一緒に描いていた仲間たちをみても、

ちょっと前までは、すごく斜め上に向かってまっしぐらに

直進していたように思うのだけど、気づけば安定飛行状態になって

地面と平行なところを飛んでいるように見える。

更には、ずっと目にしていて活躍していた方々が、

突然亡くなったりすることも増えてきて、

彼らであっても死ぬのかなんて、今更ながら驚いたりして、

まあよくよく考えたら(考えなくても)、

だれもが「人間」だもんな。

なんてことが沁み込んできたのです。

 

僕も、君も、群衆の中の猫です。□