★「定番」の時代へ

 

世の中が、速すぎる。

 

人は目から入る情報を脳で処理して、予測を立てて行動しているが、例えば車のような高速な乗り物を走らせながら目に入ってくる情報を処理するまでの能力は、もともと無いという。
世の中で自動車事故が絶えないのは、人の能力を超えたことをやっているからであって、予測や判断が追い付かず、誤ってしまうのは当たり前なのだ。というようなことを、以前運転教習時のビデオか何かで見た記憶がある。

自動車に限らず、この時代、あらゆるものが人の判断能力を超えている。

 

とりわけ消費のスピードが速すぎる。

かつての「タピオカ」ブームでは、同じような店舗が乱立し、わっと人が押し寄せて、あっという間に飽きられ消えていった。

その次は「高級食パン」だ。こちらも同様にあっという間に現れ消えて行った。

そしてに次は「フルーツ大福」だ。

 

欲しいものがぼやけた時代だ。

作り手も、実験のように「これいかがですか」を連発してヒットを探す。

人間として考えたり生み出す時間も充分に無いまま、高速で回していかなくてはならない。しかも、そのヒットは短命だ。

人間の思考や表現の速さの限界はとっくに超えている。その結果、今、新しいアイデアの考案をAIに任せることになってしまった。

人工知能を使ってまで、人間の能力を超えた速さで世界を回さないと生き残れないとする現代は、いわば消費のデスマッチだ。

楽しい、嬉しい以上に、人は便利や、豊かさの速さに、疲れていないだろうか。

 

対し「雪見だいふく」という商品がある。

どのメーカーも手を出していなかった「冬に食べられるアイスクリーム」「冷やしても固くならない餅を活かした新食感」「温かみを出す赤いパッケージ」が長い時間をかけて生み出され、それが根付いた。今も長く愛され続けている商品だ。

流行や情勢に関わらず安定した売り上げを確保できる商品を「定番」と呼ぶ。

ポールセザンヌ静物画にも時代に流されない静けさや安心感がある。これも「定番」である。

「定番」はどのように生み出されるのだろうか。

これからの時代は瞬時に消え流れ去る「流行」ではなく、無理なく長く人の心に残り続ける「定番」を考えたい。□