映画 「震える舌」

人生で置いてきたものはいつか必ず回収しなくてはならない。




今では自称「ホラー映画ファン」ともいえる自分ではあるが、かつては大の臆病者だった。


わざわざお金を払ってまで怖い思いをする人たちの気持ちがとても理解できなかった。


自分が幼少の頃、次々と新作ホラー映画が公開されるホラーブームの時期があった。


13日の金曜日悪魔のいけにえ死霊のはらわた、ゾンビ、サスペリアエクソシスト and so on.....


当時幼少であった自分にとっては、とにかく怖かった。予告編をみるだけで震え上がっていた。


それだけで個々の作品はトラウマとなり、全て避けて一生逃げ切るつもりでいた。


だがやがて僕も歳をとり、映画をむさぼるように見るようになると、あのころ封印していたホラー映画の作品も自然と見るようになり、嘘のようにはまっていったのだった........。




だが、その中でも、この「震える舌」という映画に対して抱いている恐怖は本当に尋常ではなくって、今になってもビデオに触るだけで死ぬというくらいおびえていた。


当時放送していた「ゴールデン洋画劇場」での次回予告とやらで予告編を見て、それだけで失神するほどにおびえた。


ぎゃーと叫びながら破傷風にかかった女の子が、口から血を吹き出させて悶絶しているのである。


ナレーションにも世界の終わりのような迫力があり、いったい誰がこんな怖いものを作ったのだろうか。誰がこんな映画を見るのだろうか。と思っていた。




エクソシスト」も「ゾンビ」も克服してきた。(今となっては大ファン)


でも、この「震える舌」だけは別格だった。どうしても幼少の頃の恐怖がぬぐえない。


それでもいつかはその括弧にくくって保留していたこの弱点を克服しなくてはならない。


それはいつ?


今でしょ!


レンタルビデオ店で手に取った「震える舌」。それだけで手が震えたが、ついにエイヤと借りてしまったのだった......。




結論。


これは、ホラー映画ではありません。


病気と闘う娘をかすがいとして、共に闘う家族の絆の映画でした(と僕は解釈しました)。




おそらく「エクソシスト」のブームがあったころ「じゃあ、我々も和風エクソシストやろう!」ということで企画が始まったのではないか。


でも、日本には悪魔とかあまり浸透していないし、悪魔をやってもただのパクリになってしまい、「じゃあ、病気にしよう!」となったのでしょう。


でもやっぱり子役の演技だけではエクソシストには対抗できません。特撮やメイクにもとんでもなくお金注ぎ込まないと。


というか、そもそもホラーとして描いた映画ではなかったんだよね。日本人の、家族の、結束力を描く作品だったわけです。


「エレファントマン」の公開時もそうだったけど、人間の情や強さを描く作品を「ホラー」として紹介するのはどうか。


このせいで僕は何十年もおびえていたんだからねっ。




でも、また一つトラウマ克服です。


それにしても、先入観ってのはとんでもない妄想を生み出してしまうものです。


名画であるというのに、見るにも値しないと決め込んだり。


すごくおいしいものを「大嫌い」と決めて食わず嫌いをしてしまったり。


初対面の印象だけで「悪者」と決めてしまっていた人が、実は大変優れた人だったり......。


人間は、一生のうち、先入観のせいでどれだけの大切なものを喪失してしまっているのだろう.....?


もったいないよね。僕はできるだけそういう先入観を解消していきたいと思ってます。□