身をゆだねる

 

呉の日が暮れる。


初めて訪れた呉の町は思った以上に静かだった。
そこここから海軍さんの面影が滲み出していた。
その夜、目にとまったBARの名は「ANCHOR」。
ここにも海軍さんの面影が感じられる。
店はバーテンダー1人で切り盛りしている。
若い。30歳くらいか。
仕事が美しい。
店内はかなりの混雑具合であったが、
我々が座ったカウンターの目の前で次々と
美しい手際でカクテルやウイスキーを作っていく。
その姿を眺めているだけで待つ時間も楽しい。

お酒が進み、言葉が温まったころあいに
バーテンダーと交わした会話がまた楽しかった。

「最近、BARに女性を連れてくる男性は、
 その場でスマホでカクテルを調べて、
 これを出してください、という。
 あるいは事前にいろいろ調べてくる男性もいる。
 でもバーテンダーをもっと頼ってほしい。」

男は女にかっこいいところを見せたいのだろう。
だが、お酒の種類は多様だ。
そしてお酒を飲めない女性もいる。
またそのときどきの気分で飲みたいお酒も変わる。
どんなお酒を飲めばいいのか、を、
バーテンダーに素直に相談してほしいという。
バーテンダーのお役立ちはそこにあるのだという。

お酒を飲めない女性を連れてきたときに
男は一人だけで飲んでいてはいけない。
飲めない女性にはどういうカクテルが適切で、
一緒に楽しく過ごす時間で互いに美味しいお酒を
いただいて、バランス良く酔って、楽しい時間を
過ごす。
そのための提案をバーテンダーにゆだねたらいい、
という。その通りだと思う。

男というものは、いつもかっこをつけたがる。
ハンフリー・ボガートの映画やら、
レイモンド・チャンドラーの小説に影響を受けすぎて
いるのかもしれない。

でも本当はプロフェッショナルに尋ねたらいい。
実は、素直が一番かっこいいのかもしれない。
呉の夜は素晴らしきダンディズム勉強会となった。

呉の夜に乾杯。□

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▲BAR ANCHORのコースター。良く見ると呉の港がうっすらとほられてる。
 こんなところにもしっかり気が払われている。素敵なBARでした。