今日の一冊

 

古典部シリーズ6)「いまさら翼といわれても」米澤穂信著 角川書店(10点)

 

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10点満点です。

これまでの5作品にちりばめられた古典部メンバーたちの裏ストーリーがスピンオフとなった短編集。

これまでの作品はミステリの謎にもっとも作者の力が注がれていたように感じるのだが、ここにきて、これらの短編はミステリの要素もさることながら、ホータローや千丹田える、伊原麻耶花たち古典部の面々のドラマがいっそう深く描きこまれていて、ミステリ要素がおまけのようになっている。
そしてそのドラマが、深いのである。

それぞれのキャラクターたちが主人公となるような切り口は、まるで個々のメンバーがボーカルをするユニコーンのような素敵さがある。

とくに、伊原麻耶花が中学時代の卒業制作の秘密を紐解く物語と、漫画研究会の確執から独立する物語の2つは、まさにTHE青春!で、素晴らしすぎて震えた。まとめかたも美しい。

キャラクターがお互いに長くかかえていた偏見や想いが、少しずつ紐解かれ読者に提示していくことも、全く違和感が無く、キャラクターが深く作りこまれていることを知った。

個々の作品が1つ1つ完成されていながら、全体として古典部の4人のドラマが1つの柱になって進んでいるように感じる。米澤穂信氏の作家としてのキャリアと共に成長している感じもする。

あー、はやく7冊目が読みたい!!□

 


(以下、自分へのメモ。ネタバレしますので読んでいない方は注意)


1話 箱の中の欠落
 生徒会長選挙で生徒数を超える投票数が集まった。
 ラストまで犯人と動機は特定されないが、
 年度ごとに生徒数の上下がある学校であることから、
 余分に用意されている投票箱を紛れ込ませた犯人によって
 投票数の不正が行われていた。

2話 鏡には映らない
 伊原麻耶花が主人公。ホータローは登場しない。
 中学時代の卒業制作で作成した鏡のフレームで、
 一人酷い手抜きをしたホータローの真実を暴く。
 フレームのレリーフをデザインした女子生徒が
 ある女子生徒の中傷した文言をフレームに隠し
 込んでいて、
 それを阻止するために、ホータローはフレームを
 手抜きで提出したのだった。
 伊原麻耶花のホータローへの偏見が解消されていく。

3話 連峰は晴れているか
 24ページの超短編
 ヘリコプターが好きだといっていた中学時代の教師。
 実は登山をしていて遭難した仲間が捜索されるヘリコプターを
 確認していたのだった。

4話 わたしたちの伝説の一冊
 伊原麻耶花の漫研退部へのいきさつ。
 漫画を描く派と読む派で部内が大きく分裂し崩壊寸前。
 描く派で漫画本を作ろうと画策するが、
 ネームノートが盗難される。
 犯人は河内亜矢子先輩。
 二人で組み、しがらみを捨て描くことを決意する。

5話 長い休日
 「やらなくていいことは手短に」というホータローの
 考え方のルーツ。
 小学校時代、ホータローと女子生徒の2人で花壇の世話係を
 していたのだが、女子生徒は家の都合と言いながら世話係を
 ホータローに押し付けた。
 ホータローは長い休日に入ったのだった。
 だがその休日を解く誰か現れる。と姉は予言をしていた。

6話 いきなり翼といわれても
 合唱会に参加するはずだったが突然姿を消した千丹田える。
 千丹田えるは由緒ある豪農の家系でありながら、
 父に「無理に家督を継ぐ必要は無い」と言われたことで
 悩み、合唱会での独唱のシーンがうたえなくなってしまったのだった。
 千丹田えるが将来に悩み、ホータローが見守る。愛おしい青春。