ミステリーとしては物足りないのかもしれない。
だが文学としては、とてもとても深い。
ミステリと文学の共存共栄。
これこそが米澤穂信氏の最大の魅力ではないだろうか。
ミステリに加え、背後にある文学や哲学の考え方や表現が読者をつかまえて離さない。
本書は短編集だが、1つ1つの物語は「今なおこんな家庭があるのか」と思わずにはいられない狂気をはらんだ非現実的な光景が集まっている。それを「バベルの会」という一本の串が貫いていて、全体で大きな幹を構成している。
狂気ともとれる上流階層の人々の暮らしの中に垣間見える、崩壊の予感からページをめくる手が止まらない。読後の余韻も深い。□