(以下ネタバレしてますのでご注意を)
ミステリーとしての完成度といえば僕にとっては100%ではない。
けれど僕にとって、米澤穂信氏の文体が、とてもしっくりくるのである。
確かに謎解きも物語を読み進めるモチベーションではあるが、僕にとっては事件を追うジャーナリスト・太刀洗万智というキャラクターの魅力や、彼女の「報道とは何か?」という問いかけに悩み、葛藤する姿の方がこの作品の骨格になっているように思う。
ネパールで発生した王の殺害事件を調査するうちに、取材していた准尉が何者かに殺害される。
太刀洗万智がたどり着いた准尉殺害事件の結末は、王の事件とは直接関係のあるものではなかった。
個人的なミステリーとしての期待は、准尉の死が王の殺害事件に直結して、国際的な大事件に展開していくようなものだったのだが、実際は違った。それでも、物語のすべての過程、描写はとてもきれいでしっとりしていて、その1つ1つを読み解いていく過程がとても楽しかったのである。
ジャーナリズムという仕事に対して太刀洗万智がたどりついた結論も深い。
ただの犯人探しではない、哲学のにおいも感じる名著だと思う。□