亡くなった父が残した5つの小説を探し出したいという女性・北里可南子からの依頼を受けた古本屋で働く主人公・菅生芳光。
小説は最後の1行が描かれないリドルストーリーとなっていた。
1編1編が見つかっていく中で、父はかつて「アントワープの銃声」と呼ばれた妻殺し事件の容疑者だったことが明らかになる。
リドルストーリーがあらわすものは?妻殺しの犯人は?
米澤穂信のミステリーは、多くの本格推理にあるような大どんでん返しとか、読者をあっと驚かせるほどの結末は少なく、いつもとても静かに終わっていくように思う。
犯人は誰?トリックは何?を主として読むミステリーファンにとっては、物足りないと感じることがあるかもしれない。
だけど、僕には、それ以上に、物語の構成とか人間の描写など、文学的な表現に大きな魅力があって、本格ミステリとしての要素の優先度は抑えられているように感じている。また、そこが米澤穂信作品の魅力であり、他の作家にないこの比重がぼくにはたまらなく沁み込むのである。
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(注意!!) 以下、物語の結末を書きます。
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5つのリドルストーリーは「アントワープの銃声事件」の容疑に対して「深層」という本に書かれた疑問に答える形の物語となっていた。
「奇跡の娘」
昏睡していて眠ったまま目が覚めない娘。
不幸を全く目にしない娘は世界で最も幸せで奇跡である。
娘は本当に眠っているのだろうか。
「転生の地」
殺人を犯し裁判にかけられる男。
殺害以上に、死後の死体に傷をつけることが最も罪深いとされている国。
男は殺してから傷をつけたのか。傷をつけてから殺したのか。
「暗い隧道」
暗いトンネルを抜けて夫にお金を運ぶ妻と娘。
トンネルにはかつてのテロリストがかけた罠が残されているようだ。
夫はテロリストと内通していて罠の有無をしっていたらしい。
罠がないと知って妻に行かせたのか。あるのに嘘をついて妻に行かせたのか。
「小碑伝来」
中国のかつての豪傑と言われた男が敵に捕らえられ、選択を迫られる。
妻の眠る家に火をつけて命を乞うか。自決するか。
「雪の花」
夫の誕生日を忘れた妻が氷河の中に咲く雪の花を取りに行き戻ってこない。
妻は氷河の中で眠ったようだ。夫は自決する。
妻は今も夫を愛し、氷河の中で雪の花を握って眠っているのだろうか。
「雪の花」をのぞく4編の最後の1行は、組み合わせによってそれぞれ2つの結末が当てはまるように構成されていた。
父は妻を殺したのか。他殺だったのか。
結末として、自殺を図ろうとする母を止めようとして誤って殺したのは娘である北里可南子であった。
その事件について、容疑をかぶった父は、この五断章に真実を隠し死んでいったのである。