先日、とある居酒屋に入った。
巷では有名な土佐料理の店と聞いていた。
扉を開けるとカウンターのみの古い小さな店だ。
大将とおかみさんが二人で営業をしている。
我々以外、客はいなかった。
行きつけにしている地元の居酒屋になんとなく似ていて、期待が膨らむ。
ところが。
その期待はすぐに裏切られてしまうこととなった.....。
ビール、カツオのたたき、サラダなどを注文すると、それらが出る前にまず、つきだしが出てきたのだが、若干味が薄めだった。
連れがそのつきだしに醤油を少し垂らして食べ始めたのだが、それを見るや否や、大将が猛烈に説教を始めたのである。
「うちの料理は薄めに作ってある。
かといって醤油なんて使うものでは無い。
辛いものは体に悪いんだ。
若いうちはいいかもしれないが、それが積もり積もってダメージになるんだぞ」
やがて一組のカップルが入ってきて、カウンターに座ったのだが、すぐに大将は彼らにもなんかの薀蓄をがみがみと語りだした。そしてそれが終わると、またこちらにもどってきて説教の続きが始まった。
「コラーゲンがいいんだ。コラーゲンとか食べてみたいと思いませんか。いいから食べてみてよ」
頼んでもいないのに出してきた。
マンボウのコラーゲンだそうだ。
確かに珍味ではあったと思うが、こちらの希望も聞かずに出すのはどうか。
ここにきて、かつて地元のお好み焼き屋で似たような体験をしたことが思い出された。
女将が一人で営業していて、美味い店ではあった。
今振り返っても、あれだけの美味いお好み焼きを出す店は少ない。
だがこちらが何度か通い始めると、注文もしていないのにビールを出して来るようになった。
「まだ頼んでないよ」と言うと「どうせ飲むでしょう」という答え。
「今日はすごくおいしい牡蠣が入った」と言うや否や、注文もしていないのに調理を始めていた。
「頼んでから出してくれないかな」と伝えたら、女将はかんかんになって怒りだし、
調理中の牡蠣を僕らの目の前でゴミ箱に放り込んだのである。
想いが強すぎるのである。
お店として仕事に、商品に拘るのは大切なことだ。
どうしてもそのお拘りを、客に伝えたくて仕方がないのだろう。
だが決して押し付けてはいけない。
折角のいいものが単なる有難迷惑でしかなくなってしまう。
そもそも、考えなくてはいけないのは「お互いの距離」ではないか。
人は人を許す、理解するのには時間をかけていくものである。
1回、2回、10回、100回。と回数を重ねていく中で、二人の間にも言っていい事、やっていい事がわかるようになってきて、話せる内容に幅が広がっていくのである。そんなステップアップも無くいきなり、説教やら薀蓄やらまるで常連のような間合いに踏み込まれたら、こちらは気持ちが悪い。
人間関係ってのは、ゆっくり、外から、じわじわと。作って行かなくてはいけないものだと思うのです。
かくいう僕も不躾な踏み込み方をしていることも結構あるのかもしれない。今一度自らを振り返ってみたい。
なんだかんだで居酒屋は僕にとっての学校になってるなぁ。□