鉄は熱いうちに(前編)

 

「鉄は熱いうちに打て」

 

名言である。
けれど、これだけでは言葉が足りないのではないか、と思うことがある。

 

家のそばに、一夜城のようにひょっこりと牡蠣の店ができた。
新鮮な牡蠣や海の幸を、好きなだけとって炭焼きをして食べることができる、いわゆる都会の牡蠣小屋だった。

面白い店ができたと早速行ってみた。

 

美味い。

 

だが、高い。

 

チャージ料1500円がかかる。都会の真ん中で牡蠣小屋を楽しめるというところで多大なコストがかかるということなのだろう。
そして素材も高級で高い。牡蠣が1つで800円ほど。もう1つ!もう1つ!と気軽に食べられる価格ではない。
美味いのだが・・・・惜しい。もう少し価格を下げられないものか。

 

そんなことを思っているうちに、開店してわずか数カ月程度で「リニューアル予定」の告知と共にしばらくの閉店となった。

以来、店の前を通るたびに見ていたのだが、ある日、その告知をよく見たらいつのまにか「閉店させていただきます」に変わっていた....。

 

都会のど真ん中で、牡蠣小屋を体験できる。

 

コンセプトはとても良かった。

かってな推測だが、店長とその友人らで居酒屋で飲んでいるときに「都会で牡蠣小屋を」なんて話がでて「いけるぞ!」などと盛り上がったのではないだろうか。
そんな盛り上がりが、翌日になっても消えず、
「これは本物だ。ぜひやろう。」なんてことにもなったのかもしれない。

だけど、実際に店を出したとたん、現実の大変さを思い知って、突然熱が冷めてしまう。思った以上にコストも手間もかかる。その癖に、客が来ない。投資回収ができない。しんどい。・・・やめよう。

 

かつて、通勤路でいつもの住宅街を抜け駅へ向かうとき、昨日まではまったく形すらなかった「たこ焼き屋」が突然出現していた。自宅のガレージに「たこやき」の幟を立てて、一皿100円なんてやっている。
味以上に、衛生的なことや、ちゃんとした許可を得てやれているのかということが気にかかった。そんなことを思っていたら、一週間もたたないうちに、たこ焼き機は、ガレージの脇にどけられ、幟は破けて打ち捨てられている。

ようするに

「鉄は熱いうちに打て。けれども、すぐに錆びる鉄はうつな」なのだと思うのである。□