「十二人の手紙」 井上ひさし著 中公文庫
なかなか古い本だと思うのだけど、本屋に平積みにされている。ずっと。
図書館で予約したがいつまでたっても回ってこない。
この帯に示される通り、きっとすごいのだろうという直感で購入を決めた。
タイトルにある通り、十二人の登場人物が書く手紙による十二本の短編集である。
個々の短編が1つの完結した物語となっていて、まさに帯の通りのどんでんがえしがあれよこれよと登場する。
十二話もの物語があるのだから、後半にはそうやすやすと騙されないようになるかと思いきや、やっぱり騙され続けて最後まで突っ走る。
個々の物語はわずか30、40ページ程度の短編でさくさくと読めるが、書く作家によってはこの1つの物語だけでも長編にのばしたりもする程の濃厚なストーリーが連発花火のように炸裂する。
帯にかかれた「どんでんがえしの見本市」は過言ではない。
しかも、オチがわかれば終わりというようなものでもなく、なんどでも繰り返し読めるような、登場人物の深みや毒。
「三島由紀夫のレター教室」も素晴らしいが、こちらも素晴らしい傑作である。
「桃」。
聖書の物語を近代に置き換えたような。
実業家のマダムたちが集めた大金を養護施設に慈善で寄付しようと提案するが、施設からは「余計なことをしてくれるな」と断られる。
怒り狂うマダムに施設が返信した手紙に書かれたある一編の小説。
慈善活動のために山奥にあるさびれた村へ人形劇を見せるために向かう女子学生たち。
村に迎え入れられ歓迎される彼女たちだったが。
物語の結末がマダムたちに教え諭す内容とは。
慈善活動が切り口によっては必ずしも慈善にならないという教えと痛み、人間の営みに対する哲学が混ざり込んでいて、打ちのめされた。
話としては新しいものではないのかもしれない。
だが、手紙という表現だからこその、行間を省いた要点だけを伝えていく読ませ方が絶妙に作用して、みぞおちあたりにパンチを食らったような、脳震盪を起こすような気持になる。
きっとこれは一生のこる。□