「アルジャーノンに花束を(短編版)」ダニエル・キイス著
早川文庫「心の鏡」 に収録されている。
かつて、氷室京介のファーストソロアルバム「Flowers for Aldernon」でその存在を知り読んだのだが、それは長編版の方だった。
短編版があるのを知ったのはそのはるか後、さらにそれを読んだのは今回初めてなのだった。
先に発表されたのはこちらの短編版である。
長編版は、短編版が大きな評価を得たのちに執筆されたが、自分はエッセンスが集約されている短編版のほうが好きである。
知能に障害を持つチャーリー・ゴードンの手記で物語は進む。
手術により飛躍的な知能を手に入れたチャーリーだったが、やがて先に同じ手術を受けていた鼠のアルジャーノンが死を迎え、チャーリーも元の姿に戻っていく。
へまばかりやっていて、世間からおいてけぼりにされているが、純粋な気持ちで前に進もうと生きるチャーリーの姿が美しい。
知性を手に入れて見えていなかったものが、見えるようになってしまった悲しみ。
チャーリーの姿は、周りに迷惑をかけつづけている自分自身の見立てとも取れるし、さらに赤ん坊として生まれ、老人として死んでいく人生の見立てとしても読める。
一部の生き急ぐ人たちの期待に応えられず不当な扱いをうけることと、たとえ応えられなくとも、ひたむきに生きる姿に一部の寛容なる人々の心の支えにもなっていること。
そんな生き方があっていいということを、チャーリーが思い出させてくれる。
うつくしい小説である。□