鬼滅の刃 その2

 

「誰一人欠けても無惨には勝てなかった」

 

これが本作を象徴している一言だと思う。

直接鬼と戦う炭治郎や柱たちに加え、鬼滅隊でありながら、芽が出ずに、事後処理をしたり治療をするキャラクターもいる。鬼滅隊に宿や食事を与えるキャラクターもいる。鬼を倒すための毒を開発するキャラクターもいる。

漫画に登場するすべてのキャラクターたちがそれぞれ役割を持ち、その役割を果たしていくことで、無惨を倒す。そういう描き方になっている。

 

やっぱり悟空に何とかしてもらわないと。

トドメはルフィにさしてもらわないと。

読者としては、炭治郎がヒノカミ神楽の十三番目の型をひねり出して、サクっと無惨を倒すという爽快感を期待していたかもしれない。

だが、本作には炭治郎はそういう役割では描かれていない。

物語中、かつて無惨を追い詰めたといわれる完全無欠の継国縁壱というキャラクターが出てくるのだが、あくまでも過去の回想のみで、最終決着をつける中でも、縁壱が編み出したヒノカミ神楽十三の型は登場しなかった。

少年漫画としてはスーパーヒーローに全てをゆだねるという表現が一番定番で爽快なのかもしれないのだけど、そういう表現にしていないところ、全員で敵を倒す。としているところが、この作品の大きな魅力になっていると思う。

それは現実に生きる僕らにも、それぞれの役割があり、そこに全力を注げばよいということへの声援にも聞こえてくるのだ。

 

三十三間堂の千体の千手観音の中には、自分の顔と瓜二つの仏様がいるといわれるように、本作に出てくるすべてのキャラクターの中の誰か一人に、自分と同じ境遇、立場のキャラクターが置かれている。

そういうふうに描かれているような気がするのである。□