瀞ホテル

 

 

「ここは日本のモンサンミッシェルだ」

 

 

瀞ホテルを改めて言い換えたら、

まさにそれがぴったりとはまる。

 

 

日本屈指の景勝・瀞峡を見下ろす場所に

なんとも気持ちのよさそうな味わいのある

吹き抜けの木造建築が建っている。

 

かつてはその名の通りホテルとして

営業をしていたようだが、

時代や水害などの歴史を経て、

今はカフェとして営業を続けている。

 

どうしてもその立地の条件や、

建築の非現実性、美しさから、

「観光地」として楽しむ視点にとらわれがちだが、

ここにはそれをもう一つ超越した、なんというか、

「芸術的な存在感」のようなものがある。

 

これまでの人生でいろいろな美術作品や芸術に触れてみたり、

旅をして感動をしたり、美味しいものを食べたりすることがあり、

どれも大変素晴らしい感動をもらってきたのだが、

その中でも、この素晴らしい感動の上に

「もう一つ超越した何か」がのっかっているような物に

とても稀有ではあるが、出会うことがある。

 

そこには非現実だとか娯楽だとか綺麗だとか楽しいだとか、

そういうものがしっかりある上で、

それをとりまく歴史や文化等によって、「荘厳な何か」が

オブラートのように厚くおおいかぶさっていて、

ただものではない雰囲気を滲み出させている。

 

他の例でいえば、

ジョン・レノンの「Happy Christmas(War is over)」とか、

つげ義春の「ねじ式」「海の叙景」とか、

ジャンルは問わず、ある。

作品そのものの素晴らしさとか面白さに加え、もう一つ、

なんだかとてつもないものが乗っかっていたり、

かぶさっているような。そんなものだ。

 

それは作り手が狙ってできたようなものではなくて、

世界や時代をも巻き込んで出来上がってしまったというか。

そういうようなものだ。

 

その日の瀞ホテルは「終日満員」となっていて入ることはできなかったが、

カフェとして利用するということ以上に、

もうその「荘厳な何か」「超越した何か」を感じることができただけで、

自分にとっての、この建築との全ての対話は完全に完結していたのであった。□