透明な人。

アトリエでの仕事を終えた後、すぐそばの焼き鳥店へ。
すぐそばでありながらこの店に来るのはもう5年ぶり。
いつも外から中の様子を眺め、大変にぎわっているのを
見ていたがなかなか来る機会が無かった。
玉には焼き鳥で一杯やりたいね、との声が出て久々の入店。
テーブル席を希望したが店内は大変混んでいて
カウンター席に案内された。すぐ目の前が厨房で二人の男が
大忙しで焼き鳥を焼いている。そして給仕の女の子が二人。
計4人のスタッフが所狭しと動き回っている。

美しい。

焼き鳥を焼いている間に鶏スープを煮立てる。山盛りになった使用済みの器をその間の小さな時間ですいすいと軽く水で流し食洗機にぶち込む。どんぶりに盛られたごはんが横からすっと現れると、どこかから現れたのか鶏肉のささみがひょいひょいとどんぶりに載せられ、刻みのりがかけられあっというまにお茶漬けが完成する。それを女の子がキャッチして客の席まで運び出す。それを見ている僕らの前にいつの間にか焼きあがった焼き鳥がすっと差し出される.....。

彼らに余計なことを考えている時間は無い。
頭が何かを考える前に、限られた時間以内に
美味しいものをお客様に提供する。
その一つの目的のためだけに、彼らは全くの
無色透明になって驀地に動いているのである。

いつもなら絵の話だの馬鹿な話で大騒ぎしている我々だったが、
ついついその手際に見入ってしまった。もし一人でカウンターに
座り酒を飲んでいたとしても、スタッフたちのその透明な所作を
眺めているだけで話し相手は要らない。動く芸術である。

忙しい。って美しいよね。
それを感じるのは自分ではなくて他人なんだけど。
他人から美しいとみてもらえる仕事をしたいものです。美味い酒でした。□