落とし物ラプソディ

 

雨の日の帰り、書店に立ち寄った。

 

断続的な雨が続いていて、一時的に雨はやんでいたものの、またすぐにでも降り出してもおかしくないような空模様だった。

 

お目当ての本を見つけ、レジに向かう。

 

「手提げ袋にお入れしますか」

 

「お願いします」

 

「有料となりますが」

 

そうだった。レジ袋が有料化されていたのだった。スーパーでの買い物のときしか意識してはいなかったが、書店でも袋が有料化されていたことを失念していた。

 

「いりません」

 

カバーをかけてもらった書籍を手提げのカバンにもたもたと押し込んだ。

 

この「ふだんはなかった作業」によって、一つのトラブルが起こる。

 

書店を出てしばらく歩いて気が付く。

 

傘がない。

 

慌てて取りに戻るが、もう傘はなかった。

外は断続的な雨。傘の置忘れがあれば、すぐにでも盗まれてしまうのかもしれない。

ビニールではないしっかりした傘であり、うっかり紛失というにはちょっとしたダメージがあった。やってもうた。

とりあえず、自宅に戻るまでは雨に降られずには済んだ。

夜、少し冷静になって考えてみると、外は雨模様であればだれもが傘を持って歩いているはずである。にもかかわらず、書店内での置き傘をあのわずかな間で盗難する人間がいるだろうか。

しかも、ここは日本である。

 

書店に電話してみると、

 

「傘、ありますよ」

 

との回答。忘れ物として届け出があったのか、しっかり管理してくれていた。

 

以前、長野にスケッチに出かけたとき、スマホの置忘れをして、絶望的な気持ちになったときも、施設の窓口たる場所に、しっかりと落とし物として届けられていたのである。

 

日本は落とし物の発見率がとても高い国であると、ニュースか何かで見た記憶があるが、事実そのようである。

ある意味、お腹がいっぱいとなったライオンは人を襲わないとうことだろうか。その程度の落とし物を拾って万歳。という人間は、この国にはいないほどに、モノは満たされているのだろう。

梅雨もすっかり終わり、保管されていることすらまた忘れてしまいそうになった、ある快晴の日、僕は傘を回収した。□