坂口安吾がミステリーなんて書くのか。という偏見があったのだけど。
すみません、日本ミステリ界においても屈指の作品であったことを、実際に読んでみて、後から知りました。すごかったです。
トリックや犯人の驚きもさることながら、作品に登場する人間たちの、傍若無人ぶりが壮絶で、もうそれだけで、強烈なインパクトとなって脳みそにやきつきます。
出てくる誰もが、偏った考え方や歪んだ性格をしていて、もう、獣なんですよね。
作家や画家が多く出てくるので、坂口安吾としても、自分の身の回りにいるおかしな人間たちをモチーフにしたのかもしれないけれど、まあ、ひどい笑。
実はそれも、全部、ミステリとしての核心を隠すためのものなんだけど。
探しものを隠すために、わざと部屋を散らかすという具合ですね。
以下、ネタバレのメモを含むので、ご注意を。
アガサ・クリスティの「スタイルズ荘」に犯人が似ています。
もっとも犯行ができない、もっともやりそうもない人間を犯人とすること。
その不可能を可能とさせるところが作家のひと工夫なのだと。
ミステリとしてもさることながら、愛し合った二人の犯人が、自決するような形で終わるラストは、シェイクスピアの悲劇のようで、ミステリを文学に仕立て上げるような、センスを感じました。□