ツボをつく人。

 

ツボをつく人がいる。

 

ふだんの言動はぶっきらぼうで、
「なんだこいつ」と思うことも
ときどきあったりするのだけど、
久々に何人かの仲間と会おうと
いうことになったとき、
彼は簡単だけどちょっぴり嬉しい
おみやげをもってきたりして、
「ほい、これ!」と、これまた
ぶっきらぼうに渡してきたりする。
その気遣いひとつで、それまでの
すべてがリセットされ、
彼は「いいやつ」になってしまう。

 

対して、どうでもいい些末なことに
労いの声をかけてくるのに、
一番苦労をしたときや、失敗して
落ち込んでいるときには、
ひとことも労いすらしてこない。
彼は「残念なやつ」になってしまう。

 

人付き合いの中で、
「気を遣える瞬間」を、感覚的に
体得している人間がいる。
僕らが、
最も嬉しいと受け止めることや、
最も欲しいと思っていることを、
むしろそこだけを、絶対にはずさずに、
差し込んでくる人間がいる。
彼らを「ツボをつく人」と呼んでいる。

逆に気を遣おうとしているのに、全てが
ツボを外している人もいる。
彼らを「ツボを外す人」と呼んでいる。


「ツボをつく人」も、
きっといろいろな経験から学んで、
その技を体得したかもしれないが、
多種多様なシチュエーションで、
自由自在にツボをついてくるその瞬間に
遭遇するたびに、
ツボを外す自分は喜び、ショックを受け、
ちいさく落ち込んだりもする。
もはやこれは才能と受け止めるしかない。□