(注意:以下、ネタバレ前提で書きます)
ヒデミス2022で小島秀夫監督が絶賛した作品。
飛行機がひどい乱気流に巻き込まれ、
それを抜けたとき、飛行機が二つに分かれた。
一機は、その時点3月の地上に降り立ち、
もう一機は3カ月後の地上に降り立った。
様々な職種、人種、状況の乗客たちが、
6カ月の時間差をもった全く同一のペアとして、
同じ時代場所に共存することになった。
音楽家は、お互いを双子だったとして追い風のように生きることを決める。
作家は、3月に自殺していて、その後作品がヒットしていた事実に6月の自分が驚く。
弁護士は、共存ができないお互いを憎み、息子を取り合うことになる。…など、
物語は、同一世界にもう一人の自分が存在してしまう問題を多面的な切り口で
描いているが、この現象の理由を解き明かす物語ではない。
起こってしまったことを前提に、その結果、
世界に、人々に、どういう現象が起きるか、どういう思考が生まれるかを、
文学的、哲学的に描き切っている。
個人的には、本作を読む前から、
コピーロボットが欲しい。とずっと思っていた。
絵画を描く自分。
漫画を描く自分。
ブログを書く自分。
小説や映画や漫画を楽しむ自分。・・・
やりたいことが山の様に溢れているので、
いつも、もう一人、二人自分がいて分業ができたら。と思っていた。
分身はウェルカムだ。
だが、彼らが生きていくための経済や家をどうするか。は問題だ。
日本酒を作ってみたいし、デザイナーや建築家もやってみたい。
やりたい仕事もたくさんあるので、あとは、
その仕事で飯が食えるまでどうやってスキルを獲得するか。
そこは現実問題としてあるけれど、
行けなかった世界、試せなかったIFが体験できることも楽しそうだ。
そんな「IF」を考えるきっかけとなる優れたミステリーだった。□