「真実の10メートル手前」米澤穂信著 創元推理文庫(10点)
太刀洗万智女子がわからない。
彼女のそのわからない存在こそが、このシリーズの最大の魅力になっていると思う。
記者として、事件の真相を見極める鋭い知性と行動力を持ちながら、いわゆる名探偵のような饒舌な謎解きはしない。
冷たい目で機嫌悪く世界を見ているようで、ときおりあたたかな表情をする人間くささも見せる。
ジャーナリストとして独自の深い洞察とイデオロギーをもっているが、それでいいのか?と感じるようなとがった考え方も見えたりもする。
正義の味方でもあるようで、とても冷たい魔女のような存在にも感じる。
なんとも不思議なキャラクターである。だがすごく引き付けられる魅力がある。
6つの短編が収録されるが、どれも珠玉だ。
人間や報道を描くことが主眼で、謎解きはスパイスのようになっている。娯楽として読むが哲学も深い。
大変な秀作である。もっともっと太刀洗万智の事件を読みたい。新作が待ち遠しい。□