今日の一冊

 

「リカーシブル」 米澤穂信著 新潮文庫(9点)

 

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(注!! いつものようにネタバレしまくりです)

 

 

主人公は中学校1年生のハルカ。母と弟のサトルとの3人で坂巻市に引っ越してきたところから物語が始まる。
新しい町の新しい学校、新しい仲間たちとの生活が始まるなかで、弟のサトルが、少しずつおかしなことをしゃべりはじめる。
福引きの会場で起こった万引き事件を、知っていたと言い出したり、橋の上で起こった過去の事故を見ていたという。町には過去も未来も知っていて村人の危機を救って生まれ変わるタマナヒメの伝説が残されていた。サトルには未来や過去が見えるのだろうか。サトルはタマナヒメなのだろうか?

再婚した父が蒸発して、新しい母とその息子のサトルと新しい町で暮らすことになったハルカ。中学生を主人公にした物語で読みやすい文体であるが、青春ミステリーと呼ぶにはハルカのかかえる心の問題はなかなか深く、重い。
そしてサトルの言動におけるミステリーとしての伏線と解明。
ふたつの柱が物語を堅牢に組み上げている。

ミステリーとしての答えにはとても驚いた。
この町に引っ越してきてから続く不思議な違和感の正体。
498ページで明らかにされるひとこと。

 

「この町は、わたしたちが引っ越してきてから今日まで、サトルの記憶を呼び覚ますためだけに演じられた大規模な舞台装置だった」

 

サトルは過去も未来も知っていたわけではなかった。
実際に過去にこの町で見た記憶の片隅にあったことを、町の人たちの再現で思い出しかけていただけだったのだ。

それまでになんとなく読み飛ばしていたそれらがすべて伏線だと知り、思わず読み直してしまった。

読みごたえのある一冊であった。□