最も効果のある、お灸という感じだろうか。
刺さる言葉たち。
刺さるのだが、それでもやっぱりできないなあ。と
思ってしまう。
誰もがわかっているのだ。
そうしたらきっと美しいだろうと。
だけど個人が、組織が、流されないように進むように
ディレクションすのは、容易なことではない。
かつて信州に旅をしたとき、めちゃくちゃ美味いと評判の蕎麦屋を訪れた。
確かにめちゃくちゃ美味かったのだが、そばが出てくるまでに1時間以上待たされた。
二度と行かないという結論になった。
ここには、アーチストと商業性のせめぎあいがある。
面白いものをつくろう。と1週間の〆切を切って全員で考えたとき、
1週間たって、アイデアが何も出なかった。そこそこでたけど全体的に微妙。と言った状況で「じゃあさらに伸ばして考えよう」と言えるのか。それでもさらに出なかったとき、どういう判断をするのか。
多くの事業では、どこかで「妥協」が入って、当初の面白いものを!という信念は「とりあえず手を動かそう」に目的がすげかわって、ぐだぐだと進んでいくことになる。
そのアーチストと商業性のせめぎあいに、任天堂はどういうわけか、いつもアーチスト側が勝っている。勝てるためにどうしたらいいか。そこが誰もが知りたい、考えたい焦点だろうと思う。
【語録】
3
極端にいえば、もし伝えたいイメージがあったら、
テレビの画面の上にマジックで描いたら、
1分でわかるじゃないですか。
そういうふうにして、
開発初期の人数を絞って作業を縮めていくと、
無駄もなくなっていくんですよ。
たとえ間違っててもいいから、
はっきりしたイメージを
責任者が持ったほうがいいんですよ。
そのために、まず最少人数でやるのは
すごくいいことなんですよね。
こっちは「やるとしたら」で考えてるので。
糸井さんがほんとにやってくれるんなら、
ぼくは名前貸しみたいなものをつくる気はないので、
しばらくほかの仕事ができないかもしれないけど、
「そのくらいやってくれますか?」
って言ったつもりなんですけど、
どうやら「やれますか?」って聞こえたみたいで。
5
まあ、口を挟むとしたら、
操作とアクションの部分だけですね。
操作したときの「手応え」みたいなものを
きちんとプログラムして表現しよう、と。
ゲームデザインする人って、
プログラマーに伝えるときに、
「いい感じで跳んで着地してください」みたいな
仕様書を書く人が多いんですよ。
でも、それだと、けっきょく動きや感覚を
プログラマーがつくることになるので。
そうすると、ジャンプの動きは、
このプログラマーがつくって、
演出は別のプログラマーがつくって、
音楽は音楽の係が鳴らしてってなると、
それらを寄せ集めると、バラバラの人がつくってるので、
なんかこう、一体感がなくて。
できたら、そこに一つ筋が通った、
「だってそれじゃ気持ち悪いでしょ?」
っていうひとりがいて、
その人が気持ちいいというふうに
全体ができてるほうがいいなと思うんです。
まあ、だから、ぼくがやっているのは、
そういう仕事なんだと思います。
6
技術をわかってる人って、
「なにかをつくりたい」というよりも、
「どうやったらつくれる」という方向で
満足している人が多くて。
ぼくらは自分たちがつくってるものを、
「寄木パズルみたいなもの」ってよく言ってました。
7
50歳ぐらいのときに、
「あなたの仕事の誇りはなにか」って、
インタビューで聞かれたことがあって、
「なにが自分の誇りかな?」と考えて、
ふと思ったのがそれだったんです。
最初、仕事しはじめたときのメンバー、
全員いるわ、みたいな。
黎明期からずっと
一個ずつ積み上げてきたぼくらは
ラッキーなのかもしれないですね。
やっぱり、最初からちゃんと覚えていったほうが
わかりやすいんですよ。
9
マリオについては、あるときから、
「新しい技術ができたらマリオをつくる」
て決めたことで、すごくわかりやすくなりました。
逆にいうと、新しい技術が出なかったら、
マリオはつくらないって決めたんです。
マリオを操作した経験のない人が
たのしめるマリオをつくらないと、
あたらしい人たちには会えないんですよね。
10
「得意冷然、失意泰然」
みんなが同じように考えていることは
どちらかというと怪しいと思って、
自分たちはどう考えているかを大切にしよう、
という空気ができてきたんです。
それは山内(溥)さんの教えですね。
「ケンカ弱いんやから、
まともにケンカしたらあかんぞ」って。
だから、まあ、ケンカが弱いんだから、
新しい土俵と新しいルールをつくろうっていう。
そのほうがケンカするより、ずっとラクですから。
海外に交渉に行くとしても、
海外でやるアイディアがないなら、会いにも行かない。
11
任天堂はどんな会社かというと、
「ヒット商品に支えられる会社です」
3年から5年の間に1つ、
大ヒットがあったらなんとかなる。
そういう意味では、全社員が
「大ヒットを飛ばす」ってことだけを
日々考えてたら、なんとかなる。