数名の知人が「個展行くよ」と声をかけてきてくれた。
ならば。ということで見学の後に宴会を企画した。
しばらくすると予約した3店のうち、2店からたてつづけに電話が入った。
「マンボウ対策で、19:00LO、20:00閉店となりますが....。」
19:00入店では入った途端にLOとなるが問題ないか?
可能なら開始時間を前倒しにしてはいかが?....というお店からの提案なのだった。
丁寧なお店だ、と思いつつも、逆にお店の方も支援金が入るかどうかの瀬戸際なので真剣にならざるをえないのだろう。知人にも声をかけて、宴会時間の調整をした。
2店から連絡が入ったので、3店目からも電話が来ると思っていたのだが、一向にかかってくる気配がない。
19:00からコースを予約していて、19:00LOならば、とても20:00には食べ終わることができない。どういう心根か。
しばらく放っておいたが、しびれをきらしてこちらから電話をした。
「なんでかけて来んのじゃ」と、少しのいら立ちをつのらせながら。
「あ、(電話するの)忘れてました。
大丈夫っすよ。
入店したら20:00過ぎても帰るまで過ごしていただいてOKっす」
なんだかチャラめの言葉づかい。
しかも、忘れてました、ってどういうこと....?!
いら立ちをさらにつのらせ、結局予約変更なし、19:00開始のままにしたが、内心「この店は失敗だな」と思っていた。
ところが。
このお店は我々にとって屈指の名店という結果になった。
入店すると入口で靴を脱ぐ。京都の町屋をリノベーションした店内だ。
畳のカウンター席を抜け、奥の個室に通された。
しずかで京都らしい小さな中庭が見える極上の席だった。
しかもでてくる料理は、すっぽんの雑炊にはじまり、さざえがついた刺身に、焼き物、小鍋、締めの豆ごはんに、デザートまで。
祇園でこの料理をいただいたとしたらきっと数万はいくだろうという素晴らしい料理ばかりだ。
19:30になるとお庭の電気が消えた。
眺めがよかったし、庭を抜けた先にトイレがあったので、明るくしてほしかったのだが、どうやら対外的に店をLOにして閉店の準備をしている姿を見せているようなのである。
結局21:00までゆっくりコースを楽しみ食べ残した豆ごはんでおにぎりまで作ってもらって持ち帰ったのであるが、客としては、本当に嬉しいもてなしだったのである。
3店のうち、2店はルール通りきっちりと「優等生」であることを国にも客にも貫いていたが、中にはこの店舗のように国には「優等生」でありながらも客には「不良」というアルカポネの酒の横流しのようなやり方を選ぶ店もあるのであった。
電話の応対を受けたときは、何だこの店はと思ったが、店としても連日飲食店をやりだまにする政府の発表や、それに踊らされてキャンセルを繰り返す客たちにいらだっていたのかもしれない。
少しフォローすると、客としては、今回のお店はとてもありがたかったというのは事実だ。だが、対外・対内的にきっちりルール通りやるのが正しいのだと思う。
店として、支援金はもらいながら、客とも従来通り対応するというやりかたは同業の間では「ずる」であり、そこに差がついていくのは忍びない気持ちだろう。
客である我々も、そのずるに加担したわけで、まあそういうところでの「アルカポネ」なのだ。
闇の米。禁じられた酒。コロナ禍の居酒屋もそこに並ぶものなのかもしれない。□